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大阪地方裁判所 昭和59年(行ウ)13号 判決 1985年12月18日

原告 松谷千鶴子

被告 大阪市庭井土地区画整理組合 大阪市長

主文

原告の被告大阪市庭井土地区画整理組合に対する建築物等移転工事施行通告の無効確認ないし取消を求める訴え及び被告大阪市長に対する訴えをいずれも却下する。

原告の被告大阪市庭井土地区画整理組合に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

被告大阪市庭井土地区画整理組合(以下「被告組合」という。)が原告に対し別紙物件目録(二)記載の物件について、(一)昭和五二年一〇月二七日付でした工作物等移転通知及び(二)昭和五八年一〇月一四日付でした建築物等移転工事施行通告は無効であることを確認する。被告大阪市長(以下「被告市長」という。)が右物件について昭和五八年六月一四日付でした建築物等移転工事施行認可は無効であることを確認する、訴訟費用は被告らの負担とする、との判決

予備的請求として、被告組合のした右(二)の通告及び被告市長のした右認可を取消す、訴訟費用は被告らの負担とする、との判決

2  被告組合

右(二)の通告の無効確認ないし取消を求める訴えにつき、本案前として、原告の訴えを却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決、本案につき、原告の請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決

右(一)の通知の無効確認を求める訴えにつき、主文第二項と同旨、訴訟費用は原告の負担とするとの判決

3  被告市長

本案前として、原告の訴えを却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決、本案につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決

二  原告の請求原因

1  原告は被告組合が施行する大阪市庭井土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)にかかる施行地区内の別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)同目録(二)記載の物件(以下「本件物件」という。)を所有し、被告組合員とされている。

2  被告組合は原告に対し、昭和五〇年一一月一四日付で本件土地につき仮換地指定をし、昭和五二年一〇月二七日付で土地区画整理法(以下「法」という。)七七条二項に基づき、本件事業施行のため同年一二月末日までに本件土地上の本件物件を仮換地に移転する旨の工作物等移転通知(以下「本件通知」という。)及び自ら移転する意思の有無につき照会をし、さらに昭和五八年一〇月一四日付で、法七七条六項に基づく本件物件の移転工事を同年一一月七日に施行する旨の建築物等移転工事施行通告(以下「本件通告」という。)をなした。また、被告市長は同年六月一四日付で、右建築物等移転工事の施行を認可した(以下「本件認可」という。)。

3  しかし、本件通知、認可、通告の前提となる被告組合の設立及びその認可、仮換地指定、換地計画及びその認可には、次のとおりの瑕疵があるところ、右瑕疵は重大かつ明白であるからこれらの行為は無効であり、そうでないとしてもこれら先行行為の瑕疵は本件通知、認可、通告に承継される。したがつて、本件通知、認可、通告はいずれも無効であり、仮に本件認可、通告が無効でないとしても取消されるべきである。

(一)  被告組合の設立について

(1) 被告組合は昭和四七年四月二九日付大阪市庭井土地改良区の通常総会において、右改良区の資産を用いて本件事業を施行する旨の決議に基づき設立されたが、右決議は右改良区が自らの存在目的を否定するもので実質的には解散決議とみなされるから、右改良区の資産は本来残余財産として同組合員に分配されるべきところ、右決議はこれを本件事業に供することをその内容とするから無効であり、あるいは土地改良法一条、一五条に違反する無効の決議である。

(2) 被告組合はその設立及び事業執行の資金源として右改良区から資産の譲渡を受けたが、右改良区の出資は前記(1)のとおり無効の決議に基づく違法なものであるから、被告組合は本件事業施行のために必要な経済的基礎を欠く。

(3) 被告組合は公共組合として当該区域内の資格者全員が当然に組合員となるべきところ、一部の私人の恣意による加入、脱退を認めているから、法三条二項所定の土地区画整理組合にあたらない。

(4) 被告組合は公共の福祉の増進に資するためではなく建売業者や袋地所有者の私利の増進のために設立されたもので、公共組合性がない。

(5) 本件事業の施行地区は法一八条所定の同意を得るため本件事業に反対する者の所有地を恣意的に除外して定められたものであり、法三条二項所定の一定の区域の土地とはいえない。

(6) 被告組合の定款及び本件事業計画について同意した土地所有者は三八名中の三四名であるとされているが、前記(5)のとおり恣意的に除外された土地所有者を含めると意見を採るべき者の総数は約一五〇名であるから、三四名の同意は法一八条所定の三分の二以上の同意にあたらない。仮にそうでないとしても、右三四名のうち一三名は被告組合の発起人から本件事業につき何らの負担も負わない旨約束されて同意したから真の同意者ではなく、三分の二以上の同意にあたらない。仮にそうでないとしても、右三四名の同意の実質は贈与契約であり、そうでないとしても換地計画により土地贈与を受けた一〇名の同意は贈与の受諾であつて、前記一三名のうちこれに含まれない六名とあわせ一六名の同意は法一八条の同意とはいえないから、三分の二以上の同意にあたらない。また、右一六名の所有地及び地積が増加し、贈与により同意したとみなすべき土地は法一八条所定の同意した者の土地に含むべきではなく、これを除外すると、総地積の三分の二にあたらない。

(7) 本件事業計画の内容には、被告組合員とされた者と本件事業に直接の利害関係を有しながら被告組合員から除外された者との間に明らかな不平等があるほか、同じ被告組合員である原告に対しては一億三〇〇〇万円相当の土地を道路部分として提供させ、他の多数の組合員には土地や金銭の負担をさせない等の不平等があり、憲法一四条に違反する。

(二)  被告組合設立認可について

(1) 被告らは別件訴訟において、被告市長による被告組合の設立認可の時期につき、昭和五〇年一二月二六日、昭和五一年一二月二六日、昭和四九年一二月二六日、昭和四四年一二月二六日である旨主張の訂正を繰返し、結局その時期は特定されないままとなつているから右設立認可は不存在に帰する。

(2) 被告市長は被告組合の設立認可申請を受け、その設立につき前記(一)のとおり違法があるにも拘らず、法二〇条一項但書に違反して事業計画を縦覧に供し、法二一条一項に違反して右設立認可をなした。

(3) 被告市長は右事業計画に対し原告が提出した法二〇条三項所定の意見書を違法に不採択とした。

(三)  仮換地指定について

(1) 本件土地の仮換地指定は、前記(一)のとおり設立無効の組合によりなされたものである。

(2) 右仮換地指定は法九八条一項前段後半所定のいわゆる換地予定地的仮換地指定であるにも拘らず換地計画に基づかないものである。

(3) 右仮換地指定にかかる仮換地の特定がなされていない。

(4) 原告は昭和五〇年七月ころから本件土地上で月極駐車場を経営していたところ、被告組合は右仮換地指定に際し、本件土地上の賃借人らに対し法九八条五項所定の通知をなさず、また、被告組合は遅くとも同年六月ころまでには右賃借人らの存在を確知していたから、右賃借人らに対し法八五条一項所定の申告をすべき旨を教示する義務があるにも拘らず右教示をなさなかつた。

(四)  換地計画及びその認可について

被告組合作成の昭和五六年一二月八日付換地計画はその内容において原告のみが莫大な負担を負い他の組合員は全く負担を負わない不平等なものであるから、憲法一四条に違反し無効であり、被告市長が昭和五七年一月二一日付でした換地計画認可は右のとおり無効の換地計画についてされたものである。

4  本件通知の対象である本件物件は時の経過とともに変化しその同一性を失つたから、本件通知は既に失効している。したがつて、本件通知と一体をなす本件認可、通告も失効している。

5  よつて、原告は被告組合に対し本件通知、通告が無効であることの確認、仮に本件通告が無効でないとしてもその取消を求めるとともに、被告市長に対し本件認可が無効であることの確認、仮に無効でないとしてもその取消を求める。

三  被告らの本案前の主張

1  被告組合

本件通告は被告組合が法七七条六項によつて行う移転工事に着手することを念のために通知したもので、それ自体法的効果をもつ処分ではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない。

2  被告市長

本件認可は被告市長が法七七条六項により被告組合に対してしたもので行政機関相互の内部的意思表示と同視され、これにより直接原告の権利義務を形成し確定するものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない。仮にそうでないとしても、原告としては被告組合による工事の施行に関する処分につき争えば足りるから、本件認可を争う法律上の利益を有しない。

四  本案前の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告らの本案前の主張はすべて争う。

2  本件認可、通告は本件通知と一体となつて一つの完成した効力を有し、建築物等の所有者等に対し法七七条七項所定の直接具体的な権利変動を生ぜしめるから、行政処分性があり、原告はこれらの処分の無効確認ないし取消を求めるにつき法律上の利益を有する。

3  本件認可は被告市長の被告組合に対する監督権の行使として行われるものであるが、それにより組合員たる原告が組合の管理、運営に参加する各種権限に直接的な影響を及ぼすから、単なる行政機関相互の内部的行為に止まらない。もし本件認可に行政処分性を認めなければ、違法不当な認可に対しこれを是正する手段を欠くという不合理を生じる。

五  請求原因に対する被告らの認否及び主張

1  被告らの認否

(一)  請求原因1、2の事実は認める。

(二)  同3の事実は、(一)(1)のうち被告組合が原告主張の決議に基づき設立されたこと、(一)(2)のうち被告組合が原告主張の資産の譲渡を受けたこと、(一)(3)のうち被告組合が公共組合として当該区域内の資格者全員が当然に組合員となること、(一)(6)のうち原告主張の意見を採つた者の総数は三八名でそのうち三四名の同意があつたこと、(三)(1)のうち被告組合が原告主張の仮換地指定をしたこと、(三)(2)のうち右仮換地計画に基づかないこと、(三)(4)のうち被告組合が原告主張の通知をしなかつたこと、(四)のうち被告組合が原告主張の換地計画を作成したこと、(五)のうち被告市長が原告主張の換地計画を認可したことはいずれも認め、その余の事実は争う。

(三)  被告組合において同4の事実は争う。

2  被告らの主張

(一)  被告組合の設立について

本件事業の施行地区は、大阪市南部に位置し、地下鉄我孫子駅から約五〇〇メートル南東の交通至便の地にあるため周辺からの宅地化が進み農地が蚕食される傾向がみられ、右地区内の道路も細路が数本あるのみで防災的見地からも好ましい状態にはなかつたところ、昭和四七年四月二九日付大阪市庭井土地改良区の通常総会において、施行地区内土地所有者総数三八名中三四名の同意を得て同改良区に属する農地を宅地として効果的に利用するため同改良区の資産を用いて本件事業を施行することが決定され、右決定に基づき被告組合が設立された。

右の経緯から本件事業の施行地区は、(1)施行地区の対象となる土地は右設立発起当時庭井土地改良区の組合員の所有地であること、(2)右設立発起当時既に宅地として開発され市街地を形成している土地は原則として施行地区から除外すること、(3)庭井土地改良区外で苅田耕地整理組合により耕地整理が行われた地区は対象外とすること、(4)土地区画整理法施行規則八条所定の技術的基準に適合すること、以上の基準に基づいて定められた合理的なものである。

以上のとおり、被告組合は適法に設立発起されたものである。

(二)  被告組合の設立認可について

被告組合は昭和四七年一一月二四日設立認可の申請をなし事業計画が縦覧されたが、原告はこれに対し昭和四八年一月三日、同月二六日付で意見書を提出し、被告市長は昭和四八年三月九日付で原告の右一月三日付意見書を一部採択して被告組合に修正を命じ、右一月二六日付意見書を却下する決定をした。

そこで、被告組合は被告市長の右修正命令に従い先の事業計画を一部変更した本件事業計画を作成して、昭和四八年八月一五日設立認可の再申請をし、右事業計画は昭和四九年一〇月二四日から同年一一月六日まで縦覧され、原告はこれに対し同年一一月一五日付で意見書を提出したが、被告市長は同年一二月一七日付で不採択の決定をし、昭和四九年一二月二六日付で被告組合の設立を認可した。

以上のとおり、被告市長の被告組合設立認可は適法にされたものである。

(三)  仮換地指定について

被告組合は原告に対し、昭和五〇年一一月一四日付で本件土地の仮換地をブロツク番号1、符号1、二七三五平方メートルと特定し、効力発生日を昭和五一年一月一日とする仮換地指定をした。

右仮換地指定は換地計画を定めずにされたいわゆる換地予定地的仮換地指定であるが、同時に法九八条一項前段前半により道路を造成、拡張し土地の区画形質を変更する工事のためにもなされたものであるから適法である。仮にそうでないとしても、被告組合は昭和五六年二月八日付組合総会において右仮換地を本換地として予定する旨の換地計画を可決、作成し、同年一二月九日これを被告組合事務所で公告し、同月一〇日から二三日まで同事務所で縦覧に供して昭和五七年一月一一日付で被告市長に認可を申請し、同年一月二一日付で右認可を受けたところ、右のとおり換地計画が適法に作成されその認可がされた以上原告主張の瑕疵は治癒されたものである。

なお、被告組合は右処分に際し原告主張の賃借人に対する通知をしなかつたが、原告主張のような駐車場の賃借は法九八条五項所定の賃借権にあたらない。仮にあたるとしても、右賃借人は法八五条一項所定の権利申告をしていないから、被告組合はその権利が存しないものとして各種の処分をすることができる。

以上のとおり、本件仮換地指定は適法にされたものである。

(四)  違法性の承継について

行政上の法律関係はできるだけ早期に確定してその安定を維持すべきであるから、行政行為の瑕疵は原則として独立に問擬すべきであり行政行為相互間には原則として違法性の承継を認めるべきではなく、ただ先行行為が後行行為の準備行為として一定の法律効果の発生を目指す連続した一連の手続を構成する場合に例外的に認められるにすぎない。特に先行行為につき取消訴訟が提起できる場合には、出訴期間が定められている趣旨からも当該先行行為の瑕疵はその取消訴訟において主張すべきである。

原告は本訴において先行する訴訟(大阪地方裁判所昭和五一年(行ウ)第八号事件、大阪高等裁判所昭和五四年(行コ)第一四、一五号事件、最高裁判所昭和五七年(行ツ)第一二八号事件として係属中)と同一の違法事由を主張しており、これは紛争の一回的解決という訴訟法の趣旨にも反する。従つて、原告は先行行為の当然無効を前提とする場合以外には本訴で右同一事由を主張しえないところ、先行行為である被告組合の設立、設立認可、仮換地指定に当然無効とすべき重大かつ明白な瑕疵が存しないことは前記(一)ないし(三)で主張したとおりである。

なお原告は本件先行行為の瑕疵として換地計画及びその認可の瑕疵をも主張するが、本件通知、認可、通告は仮換地指定に伴う手続であるのに対し、換地計画及びその認可は換地処分を行うための手続であつて、両者は別個の法律効果を目的とするものであり、しかも本件仮換地指定は換地計画前にされているから、換地計画及びその認可は本件通知、認可、通告の先行行為とはいえない。

以上のとおり、本件通知、認可、通告は原告主張の先行行為の違法性を承継しない。

3  被告組合の主張

原告は本件仮換地指定によりその効力発生日(昭和五一年一月一日)から従前地である本件土地を使用収益できないにも拘らず、従前地上の道路予定地において本件物件を所有していたところ、本件事業としての道路工事施行に際し右物件を移転する必要が生じたため、被告組合は原告に対し法七七条二項に基づき本件通知をなした。

以上のとおり、本件通知は適法になされたもので、何ら重大かつ明白な瑕疵はない。

4  被告市長の主張

被告市長は、昭和五七年一二月二一日被告組合から原告所有にかかる本件物件の移転工事について法七七条六項に基づき施行認可の申請を受けたため、現況を調査するとともに右申請書記載事項及び添付書類等並びに被告組合からの事情聴取により、本件通知が適法になされ移転を行うにつき必要な法令上の手続が覆践されかつ移転の内容が法令及び事業計画からみて適法妥当であることを確認のうえ本件認可をなした。

以上のとおり、本件認可は適法になされたもので、何ら重大かつ明白な瑕疵はない。

六  証拠<省略>

理由

一  被告らの本案前の主張について

1  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

2  右事実によれば、本件通告は、証人藤田和則も証言するとおり、仮換地指定に伴い従前地上の建築物等を施行者が移転するについて、被告組合が法七七条二項により原告に対してした本件通知に基づき、その執行として同条六項により被告組合が自ら工事を施行する旨を事実上通知したものにすぎないから、それ自体抗告訴訟の対象となる行政処分にはあたらないというべきである。

また、本件認可は法七七条六項に基づき被告市長が被告組合に対してしたものであつて、行政庁間の内部的意思表示にすぎず、外部に向けて表示されたものではなく、被告組合員たる原告の権利義務に直接影響を及ぼす行為ではないから、それ自体抗告訴訟の対象となる行政処分にはあたらないというべきである。

3  以上のとおり、本件通告、認可の無効確認ないし取消を求める原告の訴えはいずれも不適法といわざるをえない。

二  本件通知の先行行為の無効ないし違法による無効の主張について

1  原告は、まず本件通知の先行行為である被告組合の設立及びその認可、仮換地指定、換地計画及びその認可の無効による本件通知の無効、さらには右各先行行為の違法性の承継による本件通知の無効を主張する。

ところで、先行行為が重大かつ明白な瑕疵が存するため当然無効とされる場合には、後行行為は内容において不能の瑕疵を帯びるから、無効であることはいうまでもないが、先行行為に右のような瑕疵がなく、単に取消しうべき瑕疵が存するにすぎない場合には、行政上の法律関係には可及的早期の確定及びその安定が要請されることから、原則として違法性の承継を認めるべきではなく、先行行為と後行行為とが連続した一連の手続を構成し、一定の法律効果の発生を目的としている場合にのみ、例外としてこれを認めるのが相当である。

2  よつて検討するに、本件通知は本件土地の仮換地指定に伴い、法七七条二項によりその付随的派生的な手続としてなされたものであつて、仮換地指定に連続した一連の手続を構成し、仮換地指定の実現という一定の法律効果の発生を指向するものと解されるが、被告組合の設立及びその認可は、土地区画整理事業のいわば創始的手続として右事業の施行者を設定するため、本件事業全般の実現に向けてなされる行為であるから、これと本件通知とは連続した一連の手続を構成するものではないというべきである。

したがつて、本件通知は仮換地指定の違法性を承継するが、被告組合の設立及びその認可の違法性は承継しないと解すべきである。

なお、原告は換地計画及びその認可も本件通知の先行行為にあたると主張するが、本件通知は仮換地指定に伴う付随的派生的手続としてなされたものであるのに対し、換地計画及びその認可はこれとは別個の後続する換地処分に向けてなされる手続であり、しかも本件では換地計画及びその認可が仮換地指定の後になされたことは当事者間に争いがないから、結局換地計画及びその認可は元来本件通知の先行行為にあたらないというべきである。

3  以上によれば、換地計画及びその認可の無効又はその違法性の承継を理由とする本件通知の無効の主張、被告組合の設立及びその認可の違法性の承継を理由とする本件通知の無効の主張は、その余の点につき判断するまでもなく、失当というべきである。

そこで、以下、被告組合の設立及びその認可並びに仮換地指定に重大かつ明白な瑕疵が存するか否か、さらに右仮換地指定にその余の瑕疵が存するか否かにつき、順次検討する。

三1  被告組合の設立について

(一)  成立に争いのない甲第六、第一一、第四五、四六、第五三号証、乙第一、第四、第六号証、第七号証の一二、第八ないし第一〇号証、第一一号証の一、第一二、第一六、第二一号証、第二二号証の一ないし九、第二七号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第二五号証、証人藤田和則の証言により成立を認めうる乙第二八号証に弁論の全趣旨を総合すると、大阪市庭井土地改良区の昭和四七年四月二九日付通常総会において同組合員全員の賛成により同改良区の農地を宅地として効果的に利用するため右農地につき本件事業を施行する旨決議され、これに基づき被告組合が設立されたこと(この点につき当事者間に争いがない。)、その背景として、同改良区は大阪市南部の地下鉄我孫子駅から約五〇〇メートル南東の交通至便の地にあるため周辺からの宅地化が進み、農地が蚕食され、同改良区には細路が数本あるのみで防災上も好ましい状態にはなく、いわゆるスプロール開発の弊害を防止し健全な市街地造成を図る必要が同地区の人々に認識されていたこと、右設立経過から本件事業の施行地区は、(1)被告組合設立発起当時の同改良区組合員の所有地であること、(2)当時既に宅地として開発され市街地を形成している土地を原則として施行地区から除外すること、(3)苅田耕地整理組合により耕地整理が行われた地区は対象外とすること、(4)法施行規則八条所定の技術的基準に適合することを基準に定められたこと、以上の事実が認められ、右事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件施行地区の設定基準及びその適合性の判断は合理的なものと推認でき、これに反する証拠はない。

(二)  原告は被告組合設立の瑕疵をるる主張するので、以下順次検討する。

(1) 原告は前記改良区の前記決議は実質的には解散決議とみなされるからその内容において無効であり、あるいは土地改良法一条、一五条違反の無効な決議であると主張するが、右決議は前示(一)に認定の経過でされたものであつて、解散決議とはみなされないことは固より右各条項に違反するものともいえないから、原告の右主張は理由がない。

(2) 原告は右決議の無効を前提として、被告組合がその設立及び事業執行の資金として右改良区からその資金を譲受けたことは違法であるから、被告組合はその経済的基礎を欠く旨主張するが、右決議が無効といえないことは前示(1)に認定のとおりであるから、原告の右主張はその前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく失当である。

(3) 原告は被告組合は一部私人の恣意による加入、脱退を認めている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(4) 原告は被告組合の設立には公共性がない旨主張するが、前示(一)に認定のとおり、被告組合は都会地の農地を健全な市街地に造成するという公共性を有し、その設立の必要性も存在したことが明らかであるから、原告の主張は理由がない。

(5) 原告は、本件事業の施行地区は法一八条所定の同意を得るため反対者の所有地を恣意的に除外して定められたものであり、法三条二項所定の一定の区域の土地とはいえない旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、却つて本件施行地区は前示(一)に認定のとおり合理的な設定基準に基づいて定められたことが窺われるから、原告の右主張は理由がない。

(6) 被告組合の定款及び本件事業計画について同意した土地所有者が三八名中の三四名であつたことは当事者間に争いがないところ、原告は右三四名の同意が法一八条の三分の二以上の同意にあたらない旨るる主張するが、これらを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張はいずれも理由がない。これに関連して、恣意的に除外したとされる者を右意見を採るべき者の総数に含めた原告の主張は前示(5)のとおりその前提を欠くから、その余の点について判断するまでもなく失当である。

(7) 原告は本件事業計画の内容について、直接の利害関係を有しながら被告組合員とされない者と被告組合員との間に不平等がある旨主張するが、本件施行区域の決定が合理的基準によりなされたことは前示(一)に認定のとおりであるから、右主張は理由がない。また、原告は同じ被組合員である原告に対してのみ一億三〇〇〇万円相当の土地を道路部分として提供させ、他の多数の組合員には土地や金銭の負担をさせない不平等がある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(三)  以上のとおり、被告組合の設立には当然無効を来すべき重大かつ明白な瑕疵が存しないというべきである。

2  被告組合の設立認可について

(一)  前示乙第四、第六、第八号証に弁論の全趣旨を総合すると、大阪市長は被告組合からなされた設立認可申請に対し、右申請書の内容を審査した上本件事業計画を昭和四九年一〇月二四日から同年一一月六日まで公衆の縦覧に供したこと、原告はこれに対し昭和四九年一一月一五日付で意見書を提出したが、大阪市長は同年一二月一七日付で不採択の決定をなしたこと、大阪市長は昭和四九年一二月二六日付大阪市告示第六七三号により被告組合の設立を認可したこと、以上の事実が認められ、右事実に弁論の全趣旨を総合すると、右設立認可手続は法二〇条、二一条に基づき適法になされたことが明らかであり右認定に反する証拠はない。

(二)  原告は被告組合設立認可の瑕疵をるる主張するので、以下順次検討する。

(1) 原告は右認可は不存在である旨主張するが、右主張の理由のないことは前示(一)に認定のとおりである。

(2) 原告は被告組合設立にかかる瑕疵を前提として、右認可の瑕疵をるる主張するが、前示1に認定のとおり被告組合設立には原告主張のような瑕疵は存しないから、右主張はその前提を欠き失当である。

(3) 前示(一)に認定の被告市長が原告主張の意見書を不採択としたことが違法であるとの点については、これを認めるに足りる証拠はない。

(三)  以上のとおり、被告組合の設立認可には当然無効を来すべき重大かつ明白な瑕疵が存しないことは明らかである。

3  以上によれば、被告組合の設立及びその認可の当然無効を前提とする本件通知の無効の主張は理由がない。

四  仮換地指定について

1  原告は本件土地の仮換地指定の瑕疵をるる主張するので以下順次検討する。

(一)  原告は右仮換地指定が設立無効の被告組合によりなされたから無効である旨主張するが、前記三で認定のとおり、被告組合の設立及びその認可に当然無効を来すべき瑕疵が存しないことは明らかであるから、原告の主張はその前提を欠き失当である。

(二)  右仮換地指定が換地計画に基づかないでされたいわゆる換地予定地的仮換地指定であることは当事者間に争いがないところ、原告は法九八条一項前段後半の仮換地指定は換地計画に基づいてすべきものであるから右仮換地指定は無効である旨主張するが、そもそも換地予定地的仮換地指定が換地計画に基づくことを要請される所以は、換地計画の作成に際し利害関係人に対して実質的にこれに関与する機会を与えその権利を保護することにあると解されるから、換地予定地的仮換地指定がなされた後に右仮換地を本換地として予定する旨の換地計画が作成されたときはその瑕疵は治癒されるものと解するのが相当である。

これを本件について見るに、被告組合が昭和五六年一二月八日付で換地計画を作成し、大阪市長が昭和五七年一月二一日付でこれを認可したことは当事者間に争いがなく、前示乙第二一号証、第二二号証の一ないし九、第二七号証、成立に争いのない甲第一〇、第五四号証、第五五号証の一、二、乙第一一号証の二、三、第一七号証、第一八、一九号証の各一、二、第二〇号証、第二三号証の一ないし一〇に弁論の全趣旨を総合すると、右換地計画においては右仮換地を本換地として予定していることが認められ右認定に反する証拠はないから、原告主張の見解に立つても本件仮換地指定の瑕疵は治癒されたものというべきである。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は失当である。

(三)  原告は本件仮換地が不特定である旨主張するが、前示甲第一〇号証に弁論の全趣旨を総合すると、本件仮換地指定通知には仮換地指定調書と仮換地指定図(縮尺三〇〇分の一)が添付され、これによりブロツク(街区)番号及び符号、地積、位置を明確に知ることができるから、原告の主張は理由がない。

(四)  本件仮換地指定に際し、賃借人らに対する法九八条五項所定の通知がなされなかつたことは当事者間に争いがないところ、原告は右通知を欠く仮換地指定は無効であると主張するが、右通知の有無によつて土地所有者に対する仮換地指定の効力が左右されるものとは解されない。のみならず、証人松谷次子の証言及びこれにより成立を認めうる甲第七七、第八〇号証、成立に争いのない甲第七五、七六、第七八、七九号証に弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和五〇年七月ころから本件土地上において約一〇〇台収容可能の月極駐車場を経営し、多数の者と右駐車場の使用に関し契約をしていることが認められるところ、右駐車場の契約者が法九八条五項所定の賃借権を有する者にあたるか否かは一つの問題ではあるが、仮に原告主張のようにこれを積極に解するとしても、本件では右契約者から被告組合に対し法八五条一項所定の権利申告がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、被告組合としては同条五項により賃借権が存しないものとして適法に本件仮換地指定をなしうることは明らかである。

原告は被告組合は遅くとも昭和五〇年六月ころまでには右駐車場の契約者の存在を確知していたから、これらに対し法八五条一項所定の権利申告をすべき旨を教示する義務があると主張するが、かかる義務があることを定めた規定は存在せず所論は独自の見解であつて採用できない。因みに、従前地上の未登記賃借権者その他の権利者は、原則として換地処分がなされるまではいつでもその権利申告をなしうるのであつて、右のように解してもその権利を不当に侵害するものでないことはいうまでもない。

2  以上のとおり、本件仮換地指定には当然無効を来すべき重大かつ明白な瑕疵が存しないことは固より、取消しうべき瑕疵も存しないというべきであるから、右指定の当然無効及び違法性の承継を前提とする本件通知の無効の主張は理由がない。

五  本件通知の固有の瑕疵について

原告は本件通知の対象である本件物件は時の経過とともに変化しその同一性を失つたから、本件通知は既に失効している旨主張するが、証人藤田和則の証言及びこれにより成立を認めうる乙第二九号証、右証言により昭和五八年一一月初めころの本件土地の状況の写真であると認めうる検乙第一号証の一ないし二三に弁論の全趣旨を総合すると、被告組合が本件通知をなすに際し、当時被告組合から委託を受けた財団法人大阪市都市整備協会の担当者鍋野は、本件土地を調査の上本件物件の存在を確認し工作物状況図(乙第二九号証)を作成したこと、その後本件通告に際し、右協会の担当者藤田和則が再度本件土地を調査したところ、その現況は右図面とほぼ同様であると確認したことが認められ、右事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件物件は本件通知がなされて以後現在に至るまでその同一性を維持し、本件事業を施行するためにはこれを仮換地内へ移転する必要があることが認められ、右認定に反する証拠はないから、原告の主張は失当である。

なお、仮に本件物件が時の経過とともに本件通知に表示されたところと正確には一致しなくなつているとしても、物件の同一性が肯定され、本件事業の施行のためこれを移転する必要が認められる以上、必要に応じてその旨表示の訂正をなせば足り、これをもつて直ちに本件通知自体が当然無効となるものではないと解されるから、原告の主張はこの点からも理由がない。

六  よつて、原告の被告組合に対する本件通告の無効確認ないし取消を求める訴え及び被告大阪市長に対する訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、被告組合に対する本件通知の無効確認請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木敏行 筏津順子 松田亨)

別紙 物件目録

(一) (省略)

(二) 右土地上の

(1) 有刺鉄線四段張、木柵、延長約一六二メートル、高さ一・五メートル

(2) 植木(柳)一一本

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